2021年10月2日(土) 17:30-20:00 @11-1studio
レクチャーシリーズ第六回は、北綾瀬にあるアクリル加工メーカー三幸の代表 小沢頼寿氏。
https://www.miyukiacryl.tokyo/
今や多くのメイカースペースでも販売されている「Tokyo Acryl」は、アクリルの色・透明度・異素材の混合など様々な工夫が凝らされた新作が毎月発表され、その多様さが多くの人を惹きつけています。
元々は名札の彫刻で創業した老舗の町工場が、オリジナルのアクリル板ブランド「Tokyo Acryl」を立ち上げたのは2014年のこと。
三代目の頼寿氏はアクリルの魅力を発信すべく、本社兼工場の一部を加工スペースおよびショールームとして街に開きました。
ショールームには色とりどりの「Tokyo Acryl」の新作盤がまさにレコード屋のようにディスプレイされ、実際の加工風景を見たり加工相談することも可能。そんな感性を刺激されるオープンな空間に惹かれて、多くのデザイナーやアーティストが出入りしています。出入りする人に、社長をはじめとした社員さんが気さくに挨拶して会話が始まるのも、この場所らしい風景です。
11-1studioも目指している、「創る場所」をひらくこと、「生産的な交流」を生むこと、そこから「新しい価値」を作り出していくこと。 これを数年前から実践しているトップランナーのお話。必見です。
【時代のカルチャーと並走してきたアクリルの話】
北綾瀬にあるアクリル製造会社・三幸。
私は11-1studioを始める前綾瀬まで溶接を学びに通っていて、その時に面白そうなところがあるということで立ち寄ったのが最初だった。
ショールームにレコード屋のように並べられた色とりどりのアクリルはもちろんだが、そのスペースの分け隔てない雰囲気が強く印象に残った。
社長だろうと社員さんだろうと、来訪者に気さくに挨拶し、相談に応じ、その場でくだけた打ち合わせが始まる。
それ以来、いつか11-1studioに招いてお話を伺ってみたいと思っていた。
<アクリルを追うと見えてくるカルチャーの断面>
三幸の創業時、その主要業務は会社に納める名札の彫刻だった。
時は高度経済成長の勢い残る頃、会社が育ちサラリーマンが増え給料が上がっていく時代背景。
一転して、その後のバブル期にはヘアアクセサリの加工製造、バブルを経て1990年代には携帯ストラップ加工製造。
ディスコ文化とコギャル文化、そんなカルチャーと連動するように業態も変化していった。
そして時代はSDGsの時代に。
三幸は徐々に加工屋から素材屋へ。素材そのものの面白さ、プラスチックとしての素材そのものが抱える問題点、素材を介した異業種とのコラボレーション、それぞれに真摯に向き合う。そうして開発されたどこにもないオリジナルのアクリル材が、アートやデザイン領域の人を惹きつけている。
<継ぐ、ではなく裾野を広げる>
町工場全般に横たわる問題として後継者不在がある。
小沢頼寿氏は3代目、セルフブランドのTOKYO ACRYL立ち上げやレコード屋風のショールームなど、エポックメイキングな事業承継モデルとなっている。
「継ぐ」ことの問題をどのように乗り越えたのか。会場からもそのような質問が出た。
頼寿氏自身、当時は建設業に就きたいと考えながらも、2代目や会社全体からの「当然継ぐもの」の空気に押されてズルズルっと入ったという。
最初は何もわからなかったが、ギャル文化全盛だった当時109に卸した製品や素材が購入者に喜ばれているのを見てモチベーションに繋がっていった。
今、頼寿氏自身が考える「継ぐ」への考えが非常に興味深い。
それは「うちにある技術やリソースを各自が使って、各自が個人事業主のように、自分でメシを食っていける」モデルだ。
家業として継いで守ることにこだわるのではなく、技業としてオープンにし、裾野を広げ、自立した人々の仕事やクリエイションを手助けすることで、「残して」いく。
「家業ではなく技業。」
この姿勢は、第1回の宮本氏(溶接)、第5回の原田氏(左官)とも共通していて興味深かった。
頼寿氏は最後にこう締めくくった。
「職人とは、自分で生きられる人のことですよ。」
<事業承継の新しい形>
レクチャーシリーズも今回で6回目。
うち4回がものづくり関連で現代にアジャストしている事例で、「家業ではなく技業として」残していく姿勢が一つの共通キーワードだということが見えてきた。
それはつまり、オープンソースなプラットフォームとも言える。
技術を、誰もがアクセスや編集可能な状態とし、そこに創造的なコミュニティを作っていく。
ある意味IT社会ならではとも言えるが、それがデジタルファブリケーションのような既存技術と切り離されたところではなく、昔からある既存の町工場の技術やリソースに接続される形で起こりつつあるのは興味深いと思った。
文責:砂越 陽介(11-1 studio)
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