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Lecture Series05. 原田左官工業所・原田宗亮 氏

更新日:2021年7月7日

2021年6月26日(土) 10:30-13:00 @11-1studio

レクチャーシリーズ第五回は、千駄木にある左官屋・原田左官工業所の代表で左官職人の原田宗亮氏。

古くから神社仏閣、茶室や銭湯等の一部として重要な役割を担ってきた左官ですが、工業製品の広がりから仕事は右肩下がり、職人も平均年齢が60代後半という状況にあります。

そんな中にありながら「提案型左官」を掲げ、60人もの職人が働きその平均年齢も35歳、うち10名が女性職人と、非常に活気に満ちているのが今回のゲスト原田左官工業所です。

自社のショールーム「左官ライブラリー」は、海外輸入のものや自社開発のもの含め100種類以上の左官サンプルが並び、必要とあればすぐ奥の作業室で試作もできるという、非常にワクワクする空間。日々、新しい左官仕上げの開発が同じ進行しています。

すぐ隣の作業場にはベテランから中堅若手職人までが一緒に準備をし、現場へ向かっていく。ここにはとても明るさがあります。

なぜこんなに活気があるのか。なぜこんなに若い職人が集まり定着するのか。

「提案型左官」とはどういうことなのか。

伝統的な技術にありながら、非常に現代的なヒントに満ちた回になりそうです。



【「日用」の美を追求しながら「技術」を継なげていく】

千駄木にある左官施工会社・原田左官工業所

私がこの会社を知ったきっかけは、11-1studio実施設計の最終盤、屋外軒下部分の薄塗り左官をどうしようか悩んでweb検索をしていた時だった。

「日本唯一の提案型左官」。

そのホームページには、さまざまなオリジナル左官仕上げやそのこだわりが綴られていた。

そこから11-1studioの土間工事一式をお願いし、そのご縁もあって今回の会が実現した。


<若者が辞めない会社>

NHK SDGsキャンペーン番組 「未来へ17ACTION」で原田左官工業所が取り上げられた際のタイトルである。

職人の世界と言えば、昔から技術は「見て盗め」の世界。

何もできない新人がいきなり現場に同行し、初めは鏝を持つことも許されずベテラン職人に叱咤されながら、技術を見て、自分で密かに練習して、粘り強く一人前になっていく、それが当たり前の世界。

けれどそれが、後継者不足が深刻な中、若手が定着しない一因にもなっている。

左官職人の平均年齢は60代後半という状況。


原田左官工業所の3代目原田宗亮氏は、ある製造業の営業を経たのち家業を継いだ。

そこで目を付けたのが、当時札幌の左官会社(中屋敷左官工業)が実践していた「モデリング」という育成方法だった。

まず一番腕の良い職人が左官する様子をビデオに録り、それを教材として若手に見せ、実際にそれを真似てやらせてみる。さらにその若手の作業している様子もビデオに収め、「教材」との差を自分の目で理解させて技術を磨かせる。そんな手法である。


入社した新人は、最初の1ヶ月程度を現場でなく社内実習場での練習に費やす。つまりこの間は一切の稼ぎを生み出せない。

古くからのやり方に慣れたベテラン職人たちからは反発もあったという。

しかし、そうして教育された新人が現場に出されたる段階になって、ベテラン職人たちもその効果を実感することになる。

「何をするか」「どこを見て学べば良いか」それがあらかじめある状態で現場に出されるため、動きや習熟度合いが全く違ったからだ。

現在、原田左官工業所の職人の平均年齢は35歳前後。活気ある現場となっている。


<手で仕上げることの良さを追求する>

「左官とはどういう仕事でしょう?小学生くらいの子に分かるように説明するとしたら。」

原田氏から投げかけられた問いに、会場の大人たちがうーんと考え込む一幕も。

左官には、塗装と違って「塗り厚」があり、塗る材料にもバリエーションがある。

安定供給される工業製品と違って、現場での材の調合や鏝の押さえによって決まってしまう難しさと面白さがある。

要するに「一品もの」。

だからこそ、施主や設計者・職人や技術との対話の中で生まれてくるオリジナルの仕上げに力を入れている。


その立場は、伝統建築やアートと言ったいわゆる花形の仕事でもなく、低コストで量産化される仕事でもない、その中間のあらゆるもの。

商店建築や家具など、日用の中の美が、現在の仕事の中心を占めている。

「手で仕上げることの良さを追求したい。」

と原田氏は語った。


<家業ではなく技業にしていく>

後半の全体ディスカッションでは、古参の職人集団を抱えた中で新しい育成方法を導入することの難しさや、技術の魅力をどのように伝えて雇用を生んでいるか、求人への採用にどのような基準があるか、等に話が広がった。


魅力の伝達には、ワークショップなどで技術を一般に開いていく独自の取り組みの他、アートやエンターテイメントの影響がやはり大きいという。

挟土秀平氏のような唯一無二の左官職人のことから左官を知り志望してくる若者も多いようだ。

ただ原田氏にとって、原田左官工業所はアーティスト集団ではなく劇団のようなもの、それぞれに得意分野がありそれらを活かして手を動かしながら一緒になって一つのものを仕上げるもの、とのこと。


「これからは家業ではなく技業にしていくことが大事になってくる。」

第一回のゲスト・溶接職人の宮本卓氏も同じことを語っていた。

アートのように孤高の存在ではないけれど、日用の中でも良さを追求する、そんな技術を広く伝えていく。

今製造業全体に示されている一つの道筋かもしれない。


<まちづくりとものづくり>

レクチャーシリーズも今回で5回目。

「ものづくり」と「まちづくり」をだいたい交互にテーマにしてきたが、ここにきて段々とこの二つが実は切り離せないものではないかという感覚が湧いてきた。魅力的なまちづくりには、必ず魅力的なものづくりが関連しているのではないだろうか。

そもそも中世の街といえばギルドのように、街といえばものを作って売る場所だった。

ものづくり用語と思われるDIY(Do it yourself)も、起源は第二次世界大戦後のロンドン、破壊された街を市民が自分たちの手で復興させようというスローガン、つまりまちづくりだ。

このテーマはしばらく掘り下げてみたいと思った。


文責:砂越 陽介(11-1 studio)


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