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Lecture Series13. すみだ向島EXPO・後藤 大輝氏

更新日:2023年12月24日


レクチャーシリーズ13 「異質なものが共存する調和」

Speaker: 後藤 大輝 氏 / すみだ向島EXPO・八島花文化財団

日時:2023年9月13日(水) 19:00-21:00

参加費:1,700円(ドリンク付)    

※町co場会員・学生は1,200円

定員:15名程度

参加方法:FBイベントの「参加」ボタン、インスタDM、もしくは当サイトフォームより

町工場や商店街に隣接したこの場所で「ものづくりとまちづくり」を切り口に、地域商工業のこれからを考える、隔月程度のレクチャー+交流会。

第十三回は、昔ながらの長屋が残る東京下町・

京島にて街全体を舞台にアートや展示が楽しめる「街なか博覧会」である「すみだ向島EXPO」の仕掛け人、後藤 大輝氏。

2020年に始まったこの博覧会は、現存するレトロな商店街や町工場、戦前から残る長屋の街並みに、多様な表現者が滞在しながら創作と展示を行い、多くの感度の高い人々を惹きつけています。

もともと映像作家であった後藤さんが京島に移住したのは2008年。きっかけは新旧が織り混ざる面白い街があるとの界隈での噂だったそう。

一方でスカイツリー建設や東京オリンピック、開発の波が押し寄せ、その面白い街並みがものすごいスピード感で開発に侵食されていく様子を目の当たりにしました。

この特異な街なか博覧会の最初期の意図も「迫り来る開発の波に対する目くらまし」だったというのだから面白い。

そして今年、後藤さんたちはこうした街の風景と生活文化を引き継いでいくための財団を設立。

その名も「八島花文化財団」。

これは一時的な助成金に頼るのではなく、もっと持続的に、粋のある人々で自主的な財団をつくって長屋の買取や管理をしていこうというもの。

半年ぶりにこの街を訪れれば開発に負けじと、

彼らによる街への手入れが着々進んでいるのが目に見えてわかる。そんな丁寧さとパワフルさに満ちた街のこと、話してみませんか。 参考URL すみだ向島EXPO2023 https://sumidaexpo.com/

八島花文化財団 https://yatsushimahana.com/work/ こんな人におすすめ -都市と文化に興味がある -建築や都市がこれからどこに向かっていくのかに興味がある -アートに興味がある -町屋に興味がある -古きをどう生かすかに興味がある



【アートイベントを通して長屋文化を守る方法を考える】

2008年にここ、墨田区京島へ移住した後藤さん。

2010年には下町人情キラキラ商店街入口にあり明治通りに面する空き長屋を借り受け、1Fをシェアカフェ、2Fをシェアハウスとして改修した。「爬虫類分館」と名付けられたこの建物は現在でも商店街入り口のシンボル的なカフェとして運営されている。


ただ改修して入居を募るのではなく、入居したい人を先に募って一緒に直す、それを貸しながら2軒目、3軒目と同じように直しながら仲間を増やしていく。そのような改修&回収方法で「持ち長屋」が増えていき現在は30軒ほどを所有・管理する。



後藤さんがそんな取り組みを始めたのは「長屋とそこにある文化を守りたい」という意識からだった。

その特有の文化価値とは裏腹に、防災対策と地価の安さの両面から京島ではものすごいスピードで再開発が進んでいた。

「暇と梅爺株式会社」はそんな背景のもと法人化され、安易な開発に頼らない空き家の再生と管理を行なっている。

東京中が再開発に沸き立ちつつあった2020東京五輪。

そんな開発の流れからこの街に煙幕を張ろうという決起集会が開かれた。

前身の1998年「防災まちづくり×アート」や2000年「向島博覧会」といったアートイベントを骨格とし、暇と梅爺が所有する20拠点の町屋を舞台としたアートイベントが2020年に開催された第一回すみだ向島EXPOである。


アートだけでない、既存の商店街やリアルな生活街を巻き込んだ渾然一体のイベント感が人を惹きつけ、2021、2022と参加者も増えている。

そして今年これまでは助成金ベースであったこのイベントを、もっと自主的にサステナブルに行っていくための転換期を迎えている。


「八島花文化財団」。八広、向島・京島・寺島、文花・立花の頭文字をとった名前であるが、自主運営する財団をつくり、長屋や文化資源などの「財産」を登録して貸出できるトラストを作ったり、「江戸長屋」としての認定制度を作って価値を守ったり、地域内でより自由に手入れや修繕を担える「ネオ大工衆」の媒介を行なったり、地場の製造業者とクリエイティブな入居者との橋渡しをして「クリエイティブエコノミー」の形成を目指したり。

いかに町屋文化を「みんなの資源」化して自走しながら守れるようにしていくか、その試みがまさに始まったところである。


【開発へのバリア】

会場には大学生やシニア起業を目指す人など、これまでになく多種多様な人々が参加。後半のフリートークでは普段に増して活発なコメントが交わされた。


それまではあまり注目されてこなかった街が創造的な人々での間で「発見」され面白い街になっていく。するとそこにその「面白さ」に便乗しようと不動産開発が押し寄せ、地価を吊り上げ、創造的な人々が住めなくなり、結果均質化されたつまらない街と化してしまう。

ジェントリフィケーションである。

それにどう対抗していくか。そんな質問もあった。


そのヒントとして後藤さんは京都祇園のあり方に着目しているという。

100~200軒の町屋が、その建物や芸者の文化を守りながら存続している。それはその一帯の地主が芸者たちにより作られるNPO法人だからということだ。

皆で街の文化を守っていく地主による財団。八島花文化財団にはそんな戦略が含まれている。


【奇跡のリンゴ】

多くの多様なカオスを受け入れ大きくなっていってるように感じるすみだ向島EXPO。

そんな多様なカオスをどうやって良い方向へ進めていくか、どのように組んでどのように協力していくか、そんなことも話に及んだ。


後藤さんがそのイメージとして語ったのは農業者・木村秋則の「奇跡のリンゴ」の話だった。

農薬等で生育環境を完全にコントロールする従来の方法に対し、土壌や微生物などさまざまな変数を受け入れて良い具合に微調整を繰り返すことで「絶対不可能」とされてきた無農薬栽培のリンゴを可能とした手法。


あくまでも大きくゆるやかな価値観は共有しつつ、さまざまな多様性を許容し自主性に委ねていく。長屋文化を守るという活動が、アーティストにとっても自分たちの価値や社会的経済圏を作っていくことにもつながっていく。

後藤さんの人柄あってこそだが、そんな能動的な参加や関与の方法づくりがとても時代に合っていて、今後の展開が楽しみなエリアであることは間違いない。


すみだ向島EXPO2023は10/1~10/30の一ヶ月、「百年の祝福」というテーマで開催中。

火・水・木が定休日。詳しくは下記サイトより。




(文責:砂越 陽介/11-1studio)

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