レクチャーシリーズ12「建築資材ロスをゼロに」
Speaker: 豊田 訓平 + 宮垣 知武 / HUB&STOCK
日時:2023年6月21日(水) 19:00-21:00
参加費:1,700円(ドリンク付)
※町co場会員・学生は1,200円
定員:残3席
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町工場や商店街に隣接したこの場所で「ものづくりとまちづくり」を切り口に、地域商工業のこれからを考える、月に一度程度のレクチャー+交流会。
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第十二回は、同じ板橋区内高島平で建設業界の建材ロスにフォーカスした建材ハブ「HUB&STOCK」を立ち上げた豊田訓平 氏。
いくつかの大手建材メーカーと連携しながら、建設現場で余剰となって未使用で廃棄されてきた「ロス建材」をレスキューし、プロモーションし、アウトレット価格で販売するHUBとなっており、DIYや不動産業界を中心に着目され始めています。
建設業界全体では関東4都県のみで年間100万tもの建材が廃棄されていて、そのうち20万tが新品の資材だと言います。
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豊田さんがこの取り組みを始めたのは2021年のこと。
もともと大手デザインッ事務所のデザイナーとして働いていましたが、上記のような建材の廃棄状況を肌で知り、ソーシャルビジネスとしてこれを解決できないかとの考えに至ります。
そこには単に仕入れて安く売るだけでなく、リアルタイムで更新されるカタログの仕組みや、建材ごとのプレゼンテーションなど多くの工夫があります。
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「建築資材ロスを削減し、資源循環の文化を創る。」そう掲げるHUB&STOCK。
建築資材ロスという誰もが知りながらも扱えなかったものをビジネスとしてどう成り立たせているのか、資材ロスをゼロにした先にどのようなあり方を思い描いているのか、興味の尽きない内容を掘り下げてみたいと思います。
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こんな人におすすめ
-DIYに興味がある
-ソーシャルビジネスや起業に興味がある
-建築関係に携わっている
-建築や都市がこれからどこに向かっていくのかに興味がある
資材ロスに特化したHUB
HUB&STOCKを創始した2人、豊田さん・宮垣さんは共にゼネコンの設計部門で働いていた経歴を持つ。
設計して、現場監理をして。建設業界のその現場にて、多くの資材ロスを目にする。
中でも目立ったのが「混合廃棄物(混廃)」と呼ばれる要するに分類できない廃棄物で、建設業界全体総廃棄物量の約半数以上を占め、さらにそこには新品で使われなかった資材も多く含まれている。
床材や壁紙材などの資材はケースでの購入となるため、余剰も多く、余剰分は持ち帰ったり保管したりするのも手間ということで他の廃棄物と一緒に捨てられてしまうのである。
建設業界をめぐっては、空き家など他にも様々なロスが問題となっている。
しかし彼ら2人は、まずはこの資材ロスに着目。
エレン・マッカーサーが提唱するサーキュラーエコノミーにも触れ、コストもエネルギーも要するリサイクルではなく、使えるものを効率的・循環的に使いながら付加価値の最大化を図るリユースにより、この資材ロスを解決できないかと考えた。
数字に価値を与え、価値ベースに
資材ロスの問題自体は建設業界永年の課題であるし、未利用資材のリユースによる解決策は可能なように見える。
しかしなぜ誰も取り組んでこなかったのか?そして、HUB&STOCKは多くの商社・メーカー・工務店と提携を実現しているがどのように彼らを説得したのだろうか?
そこには建設業界に横たわるルールの障壁がまずあったと言う。
工務店は基本的に商社や納材店などを通してメーカーから仕入れるし、その流れは不可逆である。また未利用の新品だからと言って第三者がそれを「新品」として扱うのは難しい。
HUB&STOCKは古物商としてメーカー、商社、工務店各者から有価買取をし、個人やホームセンターなどへ中古品として有価販売するというモデルでこの障壁をクリア。
ではどのように提携先を説得して開拓したか。
ここが彼らの事業の特有点でありクレバーな点であると感じた
「113,217という数字、これは何を指しているでしょう?」
と宮垣さんが徐にスライドを指して問いかけた。
これは2022年、ハブストが年間で回収した資材の量(kg)。しかしこれが何につながるのだろうか。
このペースで回収を行うと、現在2023年は300トン、そして2030年には40万トンが回収(され循環する)という計算と数値目標に。
40万トンは現状新品未利用品で混廃として年間に廃棄されている量であり、つまり2030年には「カーボンニュートラルを達成する」というビジョンをここに示している。
現在のファクト(=数値)からビジネスのビジョン(=目標)と価値ベースを示す。
実際この間には大きなジャンプが必要なのだけど、このビジョンを実態に即した数値と共に示しつつ共有すること。
こうして彼らは提携先を得た。
資材循環の文化へ
そんなHUB&STOCKは西台の首都高近くにショールーム兼倉庫を構え、設計者や一般客がそこで実際の建材の質感や組み合わせを確認できる場となっている。
当然有るものからしか選べないが、設計経験のある両氏がイメージを聞いて合うものを提案してくれたりもするらしい。
このようにして「ちょっと」メンテナンスが気軽にできるような土壌が作られ、1部屋がメンテナンスされ、それが家そして街へと広がっていく。「根源的な楽しさ」をきっかけに資源ロスがなくなっていく。
彼らの最終目標はそうした「資源循環の文化」をつくること。そう語るのだった。
蠢く構想
資材ロスに着目したHUB&STOCKの取り組みへの関心は強く、近くは豊島区や板橋区、遠くは茅ヶ崎や山梨の方から多様な方の参加があった。やはり建築に携わる方が一番多かった。
建築業界での資材ロスは以前より皆が問題意識を持っていたが、こうしたことがビジネスとしてできるようになったのはIT化で情報収集や発信が手軽にできるようになった今だからこそかもしれない。
「文化を創る」というのは非常に大事な視点に感じる。
ロス資材が商品化されるとか、安い値段で手に入るとか、もちろんそこも大事なのだけど、これまでのような消費を別のもので置き換えるだけではやはり消費にしかならないわけで、何かそこに文化のようなものを育てていく必要性は、私も強く感じる。
彼ら自身も、水面下で解体業者と提携して実験的な試みを行ったり、西台から程近い高島平団地のコミュニティ問題に絡められないかの模索を行い始めたりとしているようである。
彼らのこうした取り組みがどのように文化に育っていくのか、非常に楽しみに感じた。
(文責:砂越 陽介/11-1studio)
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