2022年6月10日(金) 19:00-21:00 @11-1studio
レクチャーシリーズ09「個々が豊かさを生み出せる街」 Speaker: 西山 芽衣/西千葉工作室・HELLO GARDEN 日時:2022年6月10日(金) 19:00-21:00 参加費:1,700円(ドリンク付) ※町co場会員・学生は1,200円 定員:15名程度 参加方法:FBイベントの「参加」ボタンもしくはインスタDM
町工場や商店街に隣接したこの場所で「ものづくりとまちづくり」を切り口に、地域商工業のこれからを考える、月に一度程度のレクチャー+交流会。
第九回は、西千葉で「西千葉工作室」および「HELLO GARDEN」という2つの拠点を運営しながら街にコミットしている株式会社マイキーのディレクター 西山芽衣氏。 モノをつくる場としての「西千葉工作室」には近隣の子どもからお年寄りまでが日々出入りして思い思いのものづくりに没頭。そこから徒歩5分ほどにあるコトをつくる場としての「HELLO GARDEN」では屋外マルシェや屋外喫茶、あおぞら図書館などのイベントが開催され、さまざまな発信・交流の場となっています。
特定のクリエイティブな人々というよりはもっと普通の生活者の日々の創造に目を向け、ベッドタウンである西千葉にて個々が一人一人自ら生活の質を上げていく、消費者ではなく生産者側になっていく、そんな支援を目指してこれらの活動を立ち上げたのがなんと8年前のこと。 そんな見方はコロナ禍を経た現在、より重要度を増していますが、ここ西千葉では既にそれが定着し当たり前の風景になっているのが、日々の西千葉工作室の賑わいの様子から自ずと伝わってきます。
さらに面白いのが西千葉工作室が発行し、工作室の使用料やスタッフの給与として使われたり、街中のコーヒースタンド、本屋など7箇所で使用できる地域通貨の仕組み。 消費社会的な「お金」ではない方法で、自分で生み出す豊かさを地域に還元できる仕組みは、おそらく西千葉の良い空気感を語る上で外せない取組みです。
ポストコロナの生活はどう豊かにしていけるのか。 元の消費社会をそのまま再開するのでなく、もう少し個々が豊かさを生み出せる社会へ。 その大きなヒントがここにあります。
・ こんな方におすすめ -建築や都市に興味がある -地域づくりに興味がある -地域通貨に興味がある -行政や一部ディベロッパーのみによる「まちづくり」に疑問を感じている -消費社会ではない生活者本位の新しい社会をつくりたい
【都市の風景を地域の人々がつくり、また別の人がそれを楽しんでいる風景】
西千葉という「The 郊外」というべき街。
当時千葉大学以外には「これといって何もないように見れる」地域に、西千葉工作室とHELLO GARDENは根付き、地域の人々が生み出している確かな日常の楽しさを可視化させている。
西山さんが出身の群馬からこの街に来たのは、他の千葉大生と同じように大学があったから。
しかしなぜこの街でこのような施設を運営するに至ったのだろうか。
「どう生きていくか定まってなかった」という西山さん。
西千葉にあった「Bar呼吸」でバイトをする中で色々な生き方の人々に出会い、人の生活というものに興味を持った。
ちょうどそんな時、「西千葉を面白くしたいというクライアントがいる」との誘いを受け、まちづくり会社に就職し、そのプロジェクトチームに参加することになった。しかし、まちづくりという仕事が想像以上にハード開発や消費行動とセットになっているプロジェクトが多い世界だということにモヤモヤし、西千葉のプロジェクトでは違ったアプローチができないかと悩みながら過ごした。
転機は視察で訪れた海外。コペンハーゲンやベルリンで、街の人々が自分達で自身の暮らしやその街の風景を作りそして楽しんでる風景を目の当たりにし、これが本質的なまちづくりにつながるヒントになるのではと思った。
【ほしい暮らしを想像して創造するプラットフォーム】
2014年、所属するまちづくり会社のプロジェクトの中で、西千葉の空き地と空き店舗を同時に取得。
「与えられる街づくり」ではなく、「自分の暮らしを自分でつくる」街づくりを提案し、動き始めた。
かつての商店街の末端、八百屋と理容院に挟まれた空き店舗は、日常の中の「つくりたい」「なおしたい」を叶える拠点「西千葉工作室」としてオープン。
ここに来るのは、ものづくりを仕事とする人ではなく、生活やその延長にある趣味や活動のアップデートを試みる人々。
近くの団地の一室に越してきた若い夫婦は足りない家具をこの西千葉工作室でDIY。
卓球を上手くなりたい近所の中学生は、製品などとても高くて買えない「配球マシーン」を工作室のスタッフに相談しながら自作。
というように、ここでのものづくりは日常生活の延長上にあるささやかなものだ。しかし、3歳ほどの子どもから高齢者までが日常の延長でこの場所に出入りし、自分達の生活をアップデートさせる「何か」を日々想像して自作している様態を考えてみて欲しい。これはものすごくイノベイティブではないか。
【「私」が「公共」を変えていく時代】
一方、空き地は「HELLO GARDEN」と名前はつけたものの、特に何かすぐに整備したり建築したりはされなかった。
空き地のまま、地域の人々から出てくる要望や妄想、やりたいことを何でも一緒に実験してみる場所。
耕して菜園にしたり、学生たちが小さな音楽フェスを開催したり、15人ほどで醤油づくりにチャレンジしたり。
「一人一人のハッピーはそれぞれ違うし、ここに何が必要かは誰にも分からない。だから空き地のまま、実験の場としてまずは自由に使ってみた。」と西山さん。
事業的には「ここに何を建てたら利益を生み出すか」を考えて戸建やテナントにする、つまり建物を建ててしまうのが一般的だ。しかし、街に本当に必要とされてるものが何かわからないのに、ハコを作ってしまっていいのかと疑問に感じたという。
色々な使われ方を挟み、2016年末、少し手を加えて整備してアップデート。日々この場所でくつろぐ人もいれば、マルシェや上映会、ワークショップなどが地域の人々の手によって行われている。
私設の広場をつくり、運営しているというわけである。
HELLO GARDENは、普通の(=行政が運営する公共としての)公園に面している。通常の公園は町内会単位でしか貸切などできないが、HELLO GARDENの使われ方をみた行政が、自治会の承認があれば、HELLO GARDENやHELLO GARDENの利用者が公園を借りてイベントなどを開催することを許可するようになったそうだ。
行政が想定し住民に与え管理する、ではなく、地域の人々が使い方を考え作り行政がそれを手助けするという、いわば本来の良い自治の形がこの場所には作られている。
【自分たち自身が自分たち自身で見たい風景を信じられるか】
西千葉工作室でもう一つ目を引くものがある。
楽しげに働き、時として利用者のつくる相談に乗り一緒に考えているスタッフたちの存在である。
彼らは現金で「報酬」を支払われるのではなく、地域通貨でお礼が渡される、有償ボランティアだ。
その地域通貨は、西千葉工作室の設備利用の他、HELLO GARDENや同じ西千葉内の提携している珈琲屋や古本屋など数店舗で実際に使用することができる。
しかし、である。地域通貨で果たしてそんなに上手く回るものなのだろうか。
その疑問をぶつけてみると、「そもそもここに集まってくる人たちは関わりたい気持ちで来ていて、貨幣をもらうためには来ていない」と西山さん。
最初の頃無償ボランティアという形で動かしていた時期もあったがしっくり来ず、いわば感謝や関与を可視化するコミュニケーションツールとして地域通貨を考えたのだそう。工作室の中だけで回していたが、街にそれを還元していきたいと考え、提携店には株式会社マイキーが地域通貨を最終的に現金換金する形で運用している。
提携する古本屋では、買取には地域通貨だと少し多めの額になるよう工夫して使ってくれるなどの自主的な運用も起こっている。
こうしたことができるのは、「見たい風景を皆が共有しているから」だと語る。
「自分達自身が、自分達自身で見たい風景を信じられるか」。
シンプルで当たり前のことだけど、そんな本来的な意味でのまちづくりは久しく日本で見られてこなかった。そもそも「自分が見たい風景」などというものを自分自身で考えられる地域の人がどれほどいただろうか。
奇しくもコロナ禍を経て、人々も少し地域に対する考え方は変わり始めて、こういう方向になりつつある現在。
この西山さんの8年前からの取り組みの先進性に、改めて驚きを覚えた。
偶然なのか必然なのか今回はレクチャーシリーズ史上、女性の参加者数・割合が最多の回となった。
とくにそういうターゲティングをしたわけでもないし、どんな人が参加するか毎回「フタを開けてのお楽しみ状態(そして毎回不安状態)」なのだが、終わってみると各回違った良い雰囲気があって面白いなと思う。
文責:砂越 陽介(11-1 studio)
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