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Lecture Series10. Hanavie・松野ゆかり 氏

更新日:2023年2月5日


レクチャーシリーズ10「日常に花を、都市に彩りを」

Speaker: 松野 ゆかり/ Hanavie代表

日時:2022年9月21日(水) 19:00-21:00

参加費:1,700円(ドリンク付)

※町co場会員・学生は1,200円

定員:15名程度

町工場や商店街に隣接したこの場所で「ものづくりとまちづくり」を切り口に、地域商工業のこれからを考える、月に一度程度のレクチャー+交流会。

第十回は、この9月から文京区白山にて自身の花屋「Hanavie」を開業するフローリストの松野ゆかり氏。

11-1studioでもおなじみとなっている「ハナスク(旧 花つみ)」は、花自体はキレイなのに市場の規格からは外れてしまった花を「プラスフラワー」として一本100円~で販売する取り組みで、多くの人が気軽に花を手に取るきっかけを創出しています。

松野さんがこの取り組みを始めたのは2020年、前職で勤めていた虎ノ門の花屋から。「気軽に花を手に取るきっかけをつくりたい」との想いと、実は花屋に並ぶ前に破棄されてしまう花が3割近くあるという問題をそこの社長の下で形にし、そのフラワースタンドは全国60箇所前後にまで拡大。 SDGs的な観点だけでなくそのオシャレさから、多くの人に知られ愛されるプロジェクトに育ちました。

しかし2022年初、その取り組みは突如としてこのお花屋さんの事業休止という形で途切れてしまうことに。松野さんも職を追われてしまいます。

空っぽになったフラワースタンド、彩りの無くなった街路。良い取り組みだっただけに惜しむ声も多く寄せられました。

そしてこの5月から松野さん自身が新たに始める形で、「ハナスク」は小規模ながらも再開を果たしました。

フラワースタンドの彩りが置かれ、そこで交流が生まれ、さらにそこから各々花を自宅に持って帰る過程で彩りが街に広がっていく。

プラスフラワーの束を持って歩いてる人と街ですれ違って、なんかほっこりした気分になる。

そんな街と花の関係。話してみませんか。

こんな人におすすめ

-起業やスタートアップに興味がある

-街づくりに興味がある

-花が好き

-デザインに興味がある

-SDGsの良い形がよくわからない

【海洋の世界から生花の世界へ】

松野さんのお話は、海のスライドから始まった。

もともと海が好きでクジラが好きだった松野さん。

海洋系の大学で実習船に乗り海へ飛び出し、社会人になってからは海図表示装置の会社で8年勤めた。

2009年、仕事でトンガ王国へ。ここには、夢にまでみたホエールウォッチングのスポットがある。

晴れてクジラに会えた松野さんは「人生の夏休み」として一旦仕事を辞め、自由な期間を過ごすことにした。


その期間中に本屋でたまたま出会ったのが花の写真集だった。

載せられた美しい花の写真と共に、その本がある花屋による自費出版ということに感動した松野さんは、その花屋の門戸を叩いて修行することに。

花の世界に入ることに希望を持ちながらも、激務かつ薄給な現場。

続けることが困難なように感じた。


そして再び海の仕事へ戻ることになるのだが、護衛艦の機器メーカーの派遣の仕事についた際に、規則正しい職場で自由に使える時間が増え、結果的に花に関わる時間も増えていった。

花屋のバイトや花のフォトコンテストの応募などする中で、松野さんの花に対する思いは高まっていった。



【コロナ禍の街に彩りを】

「花で起業したい!」という想いを引っ提げて、都の創業支援プログラム「TOKYO DOCAN」や「Tokyo Startup Gateway」に挑戦。「花を気軽に手に取れるにはどうしたら良いか」という問いを投げ続ける中で、2019年の10月、紹介されたのが虎ノ門にオープンした花屋、hananeであった。


ここでは既に、市場で規格外とされたけれど鑑賞にも健康にも問題ないお花を「チャンスフラワー」と名づけ、1本100円で売る取り組みである「花摘み」が店内で小規模に始められていた。

現在のようなスタンドによる無人販売は、初めは野菜のマルシェに付帯する形で実施し、1本100円というわかりやすさや、花を無駄にしたくないという共感から、とてもよく売れた。


そこへやってきたのがコロナ禍である。

イベントは軒並み中止となり、多くの人が季節感すら感じられない日常を送ることとなった。

春の風物詩の花見も自粛。

そんな時、少しでも季節を感じてもらおうと桜+チャンスフラワーのセット=「サクチャン」を売り出したところ多くのメディアの注目を集め、「花摘み」は大きな広がりを見せる。

オフィス街の虎ノ門に花を持っている人が増え、虎ノ門の風景が彩られていった。


フラワースタンドはここ11-1studioにも置かれたが、東京や横浜複数箇所に置かれ、コロナ禍で季節感を失っていた人々の生活に彩りを提供した。総数約70万本のチャンスフラワーが売上となり、都市へと広がったのである。



【悲劇を経て】

フラワースタンド数も増え、関西にも店舗が進出し、全てが順風満帆のように感じられていた2021年冬、この取り組みは社長の逮捕により突如幕を閉じることに。

松野さん含めhananeの社員は無職に。


いろいろな財政状況を知るにつれ、一度は花でやっていくのはやはり難しいのかと諦めかけた。

しかし、花摘みのフラワースタンドを置いていた店舗の人や、hananeで行っていた花+喫茶のワークショップ「花会」のお客さんをはじめ起業を応援してくれる人が周りにいたこと。

さらには取引していた花農家さんで個人相手でもOKしてくれるところがあったこと。

こうした後押しを受け、松野さんは自身で花屋を開き、「花摘み」を復活させることを決意する。


2022年5月、「花摘み」は小規模ながら「ハナスク」という新しい名前で再開。「チャンスフラワー」は暮らしに彩りをプラスする、花農家にもプラスになるの意味を込めて「プラスフラワー」という名称になった。

2022年9月には文京区白山に自店舗「hanavie」を開店。

店での「花会」なども徐々に復活させている。



【花農家のプライド】

後半のグループセッション、当時「花摘み」を愛用していた人を中心に感謝の声や質問があった。

特に面白かった話が、この「チャンスフラワー(プラスフラワー)」の枠組みを作った時の苦労話だった。

市場で規格外の(=値がつかない)花を買い取る。一見花農家さんにとっては損のない話だが、躊躇する農家さんも多かったという。

それは、彼らにも農家側としてのプライドがあるから。「規格外」になるような花を世に出したくないとの概念が当時は結構あったらしく、実際最初期の「花摘み」は種類も彩りも現在のものと比べてだいぶ少なかったようだ。


「規格外」がきちんと価値になっていく。それを形として見せ、裾野を広げていく。

「つくる人」への価値を新たに創り、それを新たな需要と繋げているところがこのビジネスの鮮やかさだと思う。


hanavieのvieは「日常」の意味。

異形ながらも引き継がれたこの取り組みが、「日常」を豊かにし続けることを切に願いたい。

(文責:砂越 陽介/11-1studio)

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